データの解釈を深めるための6つの観点:連載「リサーチ・ドリブン・イノベーション」第10回

データの解釈を深めるための6つの観点:連載「リサーチ・ドリブン・イノベーション」第10回

小田 裕和

2021.04.05/ 13min read

連載「リサーチ・ドリブン・イノベーション」前回の記事では、いくつかのデータの種類を具体的に紹介しながら、その活用方法について紹介してきました。

目的に合わせたデータの選定と集め方:連載「リサーチ・ドリブン・イノベーション」第9回

今回は、こうしたデータを活用し、解釈を深めていくための「6つの観点」をご紹介しようと思います。

目次
データを解釈するフェーズで求められること
解釈を通じて対話する「6 つの観点」
 (1)「内から外(インサイド・アウト)」の観点
   ①今あるいは過去の自分たちの認識や価値観を探る
   ②自分たちが見えていなかった認識や価値観を探る
   ③これからの自分たちのありたい姿を探る
 (2)「外から内(アウトサイド・イン)」の観点
   ④今あるいは過去の社会や人の認識や価値観を探る
   ⑤社会や人が見えていなかった認識や価値観を探る
   ⑥これからの社会や人のありたい姿を探る

データを解釈するフェーズで求められること

リサーチの「問い」に基づいて「データ」を集めたら、次はデータに「解釈」を加えることで、問いに対する思考を深めていきます。学術研究においては、収集したデータを「分析」することで、リサーチクエスチョンの結論を導きます。

研究と同様、リサーチ・ドリブン・イノベーションにおいては、統計的な解析をすることで数量的な分析結果を出すことよりも、主観的かつ定性的にデータに解釈を加えることで、問いに対する「考察を前進させること」が主目的です。

データを分析する際には、「事実と解釈を区別せよ」とよく言われます。「データが示す客観的な事実」と、「データを通して自分が考えたこと」は明確に異なるものとして整理しようというのです。確かに、両者を無闇に混在させないことは重要です。けれども第9回で述べた通り、データにおける「客観性」とは実に曖昧です。

けれどもリサーチ・ドリブン・イノベーションでは、「何が客観的な事実か」ということは、実はあまり価値を持ちません。それよりも、ある人の解釈に、別のある人の解釈を重ねていくことによって、プロジェクトチームの考察に深みを持たせること。それによって人間と社会の本質を探究するプロセスが、何より重要です。

リサーチ・ドリブン・イノベーションにおける解釈の目的
人間と社会の本質を探究すること

解釈を通じて対話する「6 つの観点」

では、実際にリサーチを通じて新たな方向性を探索するためには、どんな解釈を行い、どんな対話を広げればよいのでしょうか?まず大切になるのは、どのような視座に立って解釈を行おうとするかの「観点」です。

ここでは「外から内(アウトサイド・イン)」と「内から外(インサイド・アウト)」の2 つのアプローチに合わせて、以下の6 つの観点を紹介したいと思います。

(1)「内から外(インサイド・アウト)」の観点

①今あるいは過去の自分たちの認識や価値観を探る

まず1 つ目の観点として挙げられるのが、「今あるいは過去の自分たちの認識や価値観」についてです。データを読み解く自分、あるいはチームや組織の中に、どんな認識や価値観が存在しているか、あるいは存在していたかを探っていきます。

自分たちの認識や価値観は一致していると言い切れるという組織は、さほど存在しないでしょう。むしろ一致している状況のほうが危うさを抱えているようにも思えます。そもそも自分自身の認識や価値観でさえ、言語化できていないことが多いのではないでしょうか?

それにもかかわらず、いざ商品開発をしよう、マーケティング施策を考えようとするときに、自分たちの中にある認識や価値観を捉え直そうとすることは、あまり多くありません。日本人は「暗黙の了解」によるコミュニケーションが得意な、いわゆるハイコンテクストカルチャーな民族であるとされています。(注1)

もちろん、それは息の合ったチームワークを引き出すという意味でポジティブな側面もありますが、考えが一致しているはずだという安易な姿勢は、最も大きな失敗の原因の1 つかもしれません。

②自分たちが見えていなかった認識や価値観を探る

2 つ目に挙げられるのが、今あるいは過去に捉えられていなかった認識や価値観を探ろうとすることです。

この観点には大きく2 つのアプローチが存在しています。1 つは前述した①の観点である自分たちの中に今ある認識や価値観を明らかにした上で、見えていなかった認識や価値観を探ろうとするもの。そしてもう1 つは、一人ひとりが見えていなかった認識や価値観を言語化していくことで、チームの中に共通して存在している認識や価値観、あるいは共通して見えていなかった認識や価値観を浮き彫りにしようとするアプローチです。

後者のアプローチにある「自分たちが見えていないことは何か?」というのは、日常ではなかなか問わない観点なので、基本的には前者のアプローチから始めていくことをお勧めします。

③これからの自分たちのありたい姿を探る

3 つ目は、未来における自分たちのありたい姿を探ろうとする観点です。

ここにも、「自分たちは社会にどうあって欲しいのか」を探るパターンと、「自分たち自身がどうありたいのか」を探るパターンの、2 つのアプローチが存在します。

自分たちは社会にどうあって欲しいのかという観点は、「自分たちのお客さんがどのような変化を望んでいるか」とは違うことに注意する必要があります。あくまで「自分たちがお客さんにどうあって欲しいか、自分たちがお客さんにどんな未来を届けたいか」を考えることです。

もう1 つのアプローチでは、自分たちが未来にどうありたいのかについて、データをきっかけに対話を重ね、考えを深めていきます。今の社会や未来の社会に対して、自分たちはどのような姿勢を有していたいのかを考えていくことは、これまでにないイノベーションを実現する上で、未来を予測すること以上に重要です。

(2)「外から内(アウトサイド・イン)」の観点

④今あるいは過去の社会や人の認識や価値観を探る

4 つ目の観点として挙げられるのは、「今の社会にどのような認識や価値観が存在しているのか」についてです。新たな方向性を探るためには、今、社会の人々は何を見ているのか、見ようとしているのかを確かめておかなければなりません。いくら新しい方向を提案していったとしても、提案する相手が今見ている世界からあまりにもかけ離れたものであれば、受け入れてもらえるものになることはないでしょう。

一方で、1 つの正解を探すようなスタンスでデータを読み解こうとしすぎると、似たような解釈しか生まれず、データの指し示す様々な可能性を打ち消してしまう可能性もあります。いきなり答えを探ろうとするのではなく、様々な見方を探り、仮説を描いていこうとする姿勢が重要です。

⑤社会や人が見えていなかった認識や価値観を探る

5 つ目の観点は、今社会に存在していない、あるいは当事者たちが感知できていない認識や価値観について探ることです。

②でも述べたように、今存在していないもの、認識の外にあるものを探ろうとすることは、日常ではあまり意識しない観点です。一方で意外と気づいていなかった捉え方が普通に存在しているものでもあります。例えば、新型コロナウイルスによって「健康」や「衛生」を重視する人は非常に多くなったと考えられますが、通勤や通学など、時間通りに通うことに関しては、あまり重視されなくなっているように思えます。

見えていないもの、意識されていないものを探るというアプローチは、より答えがない分、多様な解釈を引き出しやすいアプローチであるとも言えます。人々は何を求めているのかを探るのと同じように、何が見えていないのか、見えなくなったのかを探ろうと試みてみることが大切です。

⑥これからの社会や人のありたい姿を探る

最後に挙げられるのが、社会全体や、そこに存在する当事者たちがこれから先の未来に、どんなありたい姿を描いているかを探るという観点です。

自分たちがどうなりたいのかを考えるのも難しいのに、自分ではない誰かがどうなりたいかを探ることは相当に困難です。だからこそ、データを手がかりにしながら、そこに潜む願望を読み解いていくことが大切になります。

また、たとえありたい姿を読み解くことができたとしても、それを叶えることが正解でない場合もあることは頭に入れておく必要があります。③で読み解いたように、自分たちは彼らにどうあって欲しいかという観点も踏まえて、どんなビジョンを届けるべきかを探ることが大切になります。子どもが望むもの全てを与えることが、必ずしも愛に溢れた行為であるとは言えない、というように考えてみると、そのスタンスを理解することができるのではないでしょうか?

このように、データを読み解いていく上では、そもそも何を目的に解釈を行うのか、対話によって何を見出そうとするのかについて、事前に目線を合わせておくことが大切になります。また、同じデータを用いて対話を行う場合であっても、観点を変えることで、さらに対話を展開していくことが可能になります。

組織によって、観点が偏りがちになってしまっているケースも非常に多く、それに気がつくことができれば、まだ立ったことのない観点に立って思考を深めるポテンシャルがある、と捉えることもできます。観点を変えてデータを読み解いてみることで、リサーチデータの価値はさらに広がりを見せていくはずです。


ここまで、データに対する解釈を深めるため6つの観点を紹介してきました。自分たちの組織やプロジェクトにおける探究のプロセスの中で、どのように考察を進めていけば良いかを考える際に、是非活用していただければと思います。

次回の記事では、解釈を進めた先に、合意を形成するためにはどうすれば良いのかについて紹介していきたいと思います。

注1) エドワード・T・ホール 著/岩田慶治,谷泰 他訳『文化を超えて』(阪急コミュニケーションズ,1993)

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