「意味のイノベーション」実践における3つの壁:heyリードデザイナーと「フィンテック」を事例に考える

「意味のイノベーション」実践における3つの壁:heyリードデザイナーと「フィンテック」を事例に考える

田口友紀子

2020.08.15/ 10min read

近年、イノベーションを生み出すための新たな方法論として、「意味のイノベーション」が注目を集めています。かつて、ろうそくは「暗がりを明るくするもの」でしかありませんでしたが、現在はキャンドルとして「暗がりを楽しむ」という新しい意味が加わっています。この例からも、歴史的・文化的な状況の変化に応じて、私たちがろうそく/キャンドルから受け取る「意味」が、今と昔で変わっていることがわかります。

このように、新たな価値観を形成につながる「意味」を社会に届ける行為は、2017年にイタリア・ミラノ工科大のロベルト・ベルガンティ教授によって「意味のイノベーション」として提唱されました。「批判性を伴ったアプローチ」や「ユーザーへの共感ではなく、創り手個人の熟考から始めるプロセス」などを特徴としています。この意味のイノベーションの理解を研究と実践の両方から深めることを目的として、CULTIBASE主催の公開研究会「意味のイノベーション研究会」は開催されました。

2020年4月30日に実施された第1回目では、ヘイ株式会社(以下、hey) リードデザイナー 松本隆応さんをゲストにお迎えしました。実店舗でのキャッシュレス決済サービスや、誰でも簡単に本格的なネットショップが作れるSTORESの開発と提供を手がけてきた松本さん。今回は、「プロダクトの意味をデザインするとは – FinTechのデザインを事例に学ぶ」というテーマのもと、意味のイノベーションに取り組むにあたって直面した「3つの壁」と、それらの壁をどう乗り越えたのかといった点を中心に話題提供をしていただき、後半はミミクリデザインで意味のイノベーションを研究・実践する小田裕和とともに、パネルディスカッションと質疑応答を通じて、理解を深めていきました。

目次
FinTech分野が意味のイノベーションに向いている理由
意味のイノベーション実践における3つの壁とは
【1】「探索の壁」:自分に動機がないプロジェクトは「葛藤」をエネルギーにする
【2】「判断の壁」:新しい意味の成立を判断するために見出した「三幕構成」
【3】「共感の壁」:新しい意味が当たり前にある世界観を構築する


FinTech分野が意味のイノベーションに向いている理由

初めにお話しいただいたのは、「なぜSTORESで意味のイノベーションに取り組もうと思ったか」。松本さんは「FinTech領域と意味のイノベーションの相性が良いから」とした上で、その理由を3つ挙げました。

1.機能が均質化しやすい領域だから

金融領域のサービスは似た機能を持ちやすく差別化が難しいため、固有の意味を持たせること自体がブランドイメージの向上に繋がる。

2.社会的・技術的な環境変化が起きているから

ブロックチェーンを用いた暗号通貨やキャッシュレス決済の普及など、金融に関する環境の変化が多く起きているため、新しい意味を提示しやすい。

3.無機的であり、複雑性があるから

金融というカテゴリ自体が複雑故に、「冷たい」「堅い」というイメージを抱かれがち。だからこそ親しみの意味を持たせて、使ってみたいと思わせることが重要な分野。

この日、事例としてお話しいただいたのは、heyが提供している「STORESあと払い」

本来であれば、クレジットカードのように事前審査が発生するはずの「後払い」という行為に、リアルタイム与信というテクノロジーを取り入れることで、店頭のタブレットに携帯番号を入力するだけという簡単さで後払いができるようにした革新的なサービスです。

仕組みとしては、携帯番号に紐づいた過去の購買情報などのデータから審査を自動化することで、後払い利用枠の提供を可能にしています。大きな特徴は、アカウント登録も一切不要にし、利用するまでの手間を劇的に減らしたこと。この手軽さ自体が「後払い」という行為に、「フレンドリーでポジティブ」という新たな意味をもたらしています。

このプロジェクトのスタートは、経営メンバーからの「クレジットカードを再発明するほどの決済サービスを作りたい」という声からでした。その背景には、フリーランスや副業など働き方が増えてきている中で、「信用のものさしが古くなってきている。新しい時代に合わせたものさしを作りたい」という強い思いがあったのだそうです。

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